女狩り


女狩りに明け暮れる女子高生のヤンキー。しかし、ある日……





プロレスを始める前の私は、近所の女子高では少しばかり有名なヤンキーだった。勿論、悪い意味で。




今日も近くの女子高生徒をかつ上げして、その資金で仲間と一緒にマックへ入る。しかし、今日のかつ上げ資金は五百円しかなく、マックポテトLを三つしか買えなかった。



それでも仲間とそれを食べながら談義を楽しむ。いつもの光景だった。別に将来自分がどうなるなんてどうでもよかった。親だって私には無干渉で何も期待をしていない。今が楽しければいい。



「おい」
 


後ろから声がした。そして声からして何か機嫌を損ねていることがわかった。
 



睨みを利かせて男の方を振り向くと、身長は180センチくらいで体格はラグビー選手のようにガッチリとした体つきの何処かの学校の制服を来たふけ顔の高校生らしき男が立っていた。



そしてやはり私の方ににらみを利かせて喧嘩をふっかけてきそうな勢いだった。男の後ろにはさっきかつあげをした女子高生が私に殴られた腹を片手で抑えながら怪訝そうな顔で私を見つめている。



「ちょっと、外出ろよ」
 


まずいと思った。体格とこの相手にかける威圧感からして、おそらく私たちが一斉に男に殴りかかっても勝てる相手ではない。かと言って、ここで逃げても店の中だ。仲間の誰かが捕まる可能性は高い。




「ああ、でもかつ上したのは私だ。こいつ等は関係ないから、逃がしてもいいね」



「ちょっと沙希。何言っているの?」
 


それだとしたら、私が一人ボコられるしかない。女子高生を殴ったのは私なのだから。




「おう。わかった」
 



私は心配する仲間を他所に、男と店の外に出て行った。




ウッ!!



 店から少し離れた、人気のない公園で私は男にボコられていた。




「おい、そんな二、三発軽く腹を殴られただけでそのざまかよ」
 



地面に跪いて腹を両手で抑えむせ返る私に、男はせせら笑う。




「少し有名だって聞いたからもっと強いかと思ったらさ、弱ちいなコイツ」




 胃袋が変形したような内臓の痛みを堪えながら、力の入らない足を踏ん張らせて私は何とか立ち上がる。私は負けず嫌いだ。負けるとわかっていても一度やり始めた喧嘩には負けたくない。



「舐めるな!」
 


私は力を振り絞って、男に殴りかかる。しかし、私の力のないパンチは簡単に男に避けられよろけたその勢いで男の膝蹴りを腹に食らう。



ウェ!! オェ!
 



私の華奢で特に鍛えてもいない腹に、男の膝が深くめり込む。胃袋からさっき食べたポテトフライが逆流してたまらなく口から嘔吐した。汚物で着ていたシャツが茶色く汚れる。




「ねぇ。この子吐いちゃったよ。やりすぎじゃない?」
 


地面に這い蹲りむせ返る私に、男に殴られる私をずっと見ていたかつ上げをした女子高生が、私を哀れむように言う。




「それもそうだな。今のはかなり思いっきりやったしな。おい。お前、今度俺の彼女こんなことしたら、今度は本気で殺すからな」
 



男はそう吐き捨て、彼女と共に私の前を去ろうとした。




 私は負ける。こんな汚物を吐き散らして、無残な姿で。嫌だ。




「おい。ちょっと待てよ。まだ終わってねぇよ!」
 



そう思うと私は立ち上がっていた。もう、激痛で立っているのがやっとで殴る気力すらないのに立ち上がっていた。



「ええ? まだやるのかよ。お前……タフだな。っていうか根性があるのか」



「来いよ!」
 


私はそう履き捨てるよう言うと、身体から力が抜けてその場に崩れるように倒れこんだ。
 



朦朧とする意識の中で、男が歩み寄ってくる音が聴こえる。もう反撃する力はない。もうどうにでもなれ。




「おい、お前。そんなヤンキーなんか止めてさ、プロレスやらないか?」
 



男の言い放ったこの一声、この男の出会いで私の人生が変わった。人生の転機は突然でどこにあるかはわからない。