男と女



女と男は平等だと今叫ばれているが、現実はそう甘くはない。



それが最も感じられるのはやはり体格の差である。もしも、一般的な女子と男子が殴り合いの喧嘩をするとしたら、だんとつで男子が勝つだろう。だから、「男は女を殴ってはいけない」という暗黙の了解があるのである。


真実は、今の彼氏の考え方に腹を立てていた。今日も自分の部屋で彼と口論になる。



「なんで、平等に扱ってくれないのよ?男と女は平等でしょ?」



「またその話?もう飽きたよ。」




テレビに背を向けてろくに真実の話を聞こうとしない。



「わかった。じゃあ別れよう。」




真実は思い切って言ってみた。この言葉には彼も動揺した。




「そ、そんなことで別れるなんて言うなよ。」




「これは私にとって重要な事なの!」




真実は彼を睨みつけた。




「よし、わかった。じゃあ俺と勝負しろ!」




急に彼が寝転んでいた身体を起し、胡座をかいて立っている真実を見上げた。




「勝負って何を?」




「喧嘩だよ。殴り合いの。」




彼の顔がニタッと笑った。




「殴り合いの喧嘩?嫌よ。痛いし…」




私は少し鳥肌が立った。あの彼の不気味な笑顔に。




「は?お前、平等に扱って欲しいんだろ?じゃあ、喧嘩も俺と同じようにできないと不味いじゃないか?」




真実は黙った。確かに、彼の言っていることは間違っていない。




「だけど、私は女……」




「ほら、そうやって立場が悪くなった時だけ、女だって主張する。何が平等だよ!馬鹿馬鹿しい。」




彼は、また寝転がってテレビを見始めた。




「わかったわよ。やってやるわよ。ヒョロイあんたになんか負けないわ。」




真実は勢いで言ってしまった。



「おお、おもしれえさっそくやるか?」



私の言葉を待っていたかのように、急に彼が立ち上がって目をギラギラとさせた。




「今日やるの?どこで?」




「ここでさ。なんだ恐いのか?」




「恐くなんかないわよ!やりましょ。で、ルールは?」



「ルール喧嘩にそんなものはねえ。でもな、一つだけ作ってやる。俺はお前の顔は殴らねえ。腹だけ殴る。」




「何でそんなルール勝手に作るのよ!いいわよ何処殴ったって。顔でもお腹でも。」



「いや、お前の顔は傷つけたくない。俺が惚れた顔だからな。お前も顔は殴られたくないだろ?」




「まあ、一応…」



真実も本心は、顔は殴って欲しくない思っていた。




「じゃあ、決まりだな。でもな、腹は思いっきりいくぞ。吐いても止めてやらないからな。」



「わかってるわよ。」




そして二人は上半身の服を脱いだ。彼はやはり細かった。腕は棒みたいで腕も細く、身体も腹は割れているものの、脂肪がほとんどない皮と骨でできているようだった。



「よし、どっからでもこい。」




彼が訳のわからないポーズをした。彼は全く格闘の経験がないはおろか、喧嘩にも一度も勝ったことがないと真実は聞いている。一方、真実も格闘経験はないものの、兄と幼い頃よく喧嘩した事もあって、喧嘩の仕方はわかっているつもりだった。




真実は前触れもなく、彼の顔に殴りかかった。そして簡単に真実のパンチは彼に当たる。



彼が少し後ろによろけた。




真実は、その隙に彼の鳩尾を殴った。



「ウッ。」



彼は腹を片手で抑えた。



「やるじゃないか、よ」



ドン



真実は二発の攻撃が簡単に当たっていたことでガードを散漫にしていた。



彼女の腹の胃の辺りに彼は右アッパーが食らう。



「ウッワ!!」



思わず真実は大きな声が出てしまった。腹筋に力の入れていなかった真実の
腹はまるで内臓などは入っていなく、水しか入っていないかのように柔らかく、少し力の入ったパンチでも食らえば腹は大きく凹むような典型的な女性の腹だった。




真実はひと溜まりもなかった。真実はその場に両手で腹を抱えしゃがみ込んだ。内臓が今までにないほどの悲鳴をあげていた。



「なんだもう終わりか?真実?」



真実は激痛を堪えて何とか立ち上がった。



しかし、もう真実には彼に反撃をする余裕も防御する余裕もなかった。



また彼は真実の腹にストレートを食らわせた。



「ウェ! イタイ……」
 


真実の腹に深くめり込んだ拳は胃袋を強く圧迫し、さっき食べたばかりのケーキが胸の辺りまで込み上げてきた。



「まだまだ!!」
 


と、彼は真実に向かって突進し、彼女を壁まで追いやった。
 



そして腹を何度も殴りつける。
 


鳩尾、胃、下腹部。
 


無抵抗の彼女の柔らかい腹を造作に彼女の殴っていく。




「ウ、ウェ……」
 



真実はとうとうその胃袋にあったケーキを床に吐き散らし、崩れるように倒れた。



「おお、いいぞ。真実。もっと吐け」
 


もはや、これは喧嘩ではなくなっていた。
 


彼は倒れた彼女にさらにつま先で腹部を蹴りつける。
 



しかし、真実はその攻撃にうめき声を出す余裕もなくなっていた。